主任あいさつ
ベートーヴェン研究部門発足にあたって
主任:礒山雅
国立音楽大学音楽研究所の歴史研究部門の研究主任をお引き受けすることが決まったとき、研究対象をベートーヴェンとすることに、さほどのためらいはなかった。なぜなら、本大学の附属図書館には、ベートーヴェンの初期資料(主として初版楽譜と初期の出版譜)がかなりの数コレクションされており、その重要性と研究の必要が、藤本一子さんによる日本音楽学会の研究発表でも、つとに指摘されていたからである。また、附属図書館員の長谷川由美子さんがそれら初期資料のウォーターマークに関する詳細な研究(別掲論文参照)を進め、その目録が完成に近い段階にあることも、重要な前提であった。こうした資産を活用する形で研究を進め、その成果を大学教育に役立てること、また社会に還元することが、ベートーヴェン研究部門の基本的な目標となった。
社会的に見ると、講談社から書物とCDによる「ベートーヴェン全集」が前田昭雄氏の監修のもとに継続出版され、日本語によるベートーヴェン研究がまとまった形をなしつつある、という状況があった。この企画に参画している主要な研究者たちを集め、日本におけるベートーヴェン研究のいわば集合場所を作り出すことは、意義があり、同時に時宜を得たことであるように私には思われた。そこで、ベートーヴェン研究にはなんの予備知識も持たない私が、学内・学外の英知を募る形で、一組織を発足させたわけである。
ベートーヴェン研究に国際的な視野と情報交換が欠かせないことは、言うまでもない。そこで第一年目のプロジェクトとして、本場ボンのベートーヴェン・アルヒーフ所長、ジークハルト・ブランデンブルク氏を招聘した。氏を通じて最先端の研究に触れると同時に研究体制への助言をいただき、今後の協力の礎とすることがその目的で、幸いにして、所定の成果を達成することができた。また、日本におけるベートーヴェン受容の研究もわれわれの重要な課題と認識しており、目下精力的に、文献の収集と情報の分析を進めている。
もちろん当研究部門の役割は、高度に専門的な研究を行うことばかりではない。啓蒙活動による研究成果の還元は、もうひとつの重要な柱である。そのため新年度においては、学生や一般人を対象とするレクチャー・コンサートを開催し、継続させていくことによって、日本における「ベートーヴェン文化」の向上に貢献したいと思う。研究部門が得た新情報は、今後インターネットを通じて公開するつもりである。ベートーヴェンに関する新しい情報にリアルタイムで接することのできる仮想的な図書館をネット上に構築することは、当研究部門の存在を社会的たらしめる最善の方法であると認識している。諸賢のご支援とご助言、情報提供を、切にお願いしたい。(『音楽研究所研究年報 第13集』2000年度 より)
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