肖像と彫像にみるベートーヴェン
30歳頃のベートーヴェン
エルンスト・シュタインハウザー・フォン・トロイベルクの
原画に基づくリーデルによる画(?) 1801年
 ここでご紹介するベートーヴェンは、前回、ご紹介の2点のうち右の版画、すなわち「ナイトルによる銅版画の海賊銅版画」(リーデル作)に似ています。衣服はリボンの結び方までそのままです。しかし面立ちはほっそりと整えられ、頑強なイメージから、むしろ繊細なイメージへと変身させられています。
 研究者R.ランドンはこの画を、「おそらくトロイベルク原画によるリーデル作の銅版画」とコメントしました。しかし、ランドンのこのコメントはおそらく誤りであり、「リーデルの銅版画」は前回ご紹介の右の画であることが、現在では判明しています。ランドンは海賊版画そのものの存在は承知していたものの実物の確認がとれず、周辺の状況から、この画をそれと推定したと思われます。また、この画はランドンのようような銅版画でないことも明らかです。おそらく油彩画でしょう。作者については、海賊版同様リーデル作である可能性も否定できませんが、別人物ではないかとも思われます。いずれにせよ、この年あたりからベートーヴェン人気が急速に高まっていたことが想像されます。
 しかし同時に、この頃ベートーヴェンは聴覚の異常を告白しはじめます。この画がかかれたであろう頃に、故郷ボンにいる親友に書いたベートーヴェンの手紙を引用します。 「妬んでいるデーモンだけは私の邪魔をしてきた。私の聴覚はこの3年、しだいに弱くなってきています。・・・耳は昼となく夜となく低く唸り、騒がしく鳴っている。・・私はこの2年、社交的な生活をさけてきました。・・私はこれまで何度か創造主と自分自身の存在を呪ったりもしたのです。・・・」(1801年6月29日)「この2年来どんなに暗澹たる生活を送ってきたことか。・・耳の病がなければ、とっくに世界の半分をまわっていたことだろう。・・ああ、この災いがなかったら、私は全世界を抱擁するだろう。・・不幸――それには耐えられない。運命の喉もとをつかまえてやります。運命に完全屈服したり、押し潰されたりはすまい。」(1801年11月16日)[いずれもゲルハルト・ヴェーゲラー宛て]
 1801年のベートーヴェンのおもな創作をあげておきましょう。 ヴァイオリンソナタOp.24(《春》)、ピアノソナタOp26、バレエ音楽《プロメテウスの創造物》Op43、ピアノ協奏曲第2番Op.19、セレナードOp.25、ピアノソナタOp.27の1と2(《月光》)、ピアノソナタOp.28(《田園》)、弦楽五重奏曲Op.29。
(藤本一子)
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